“黒い”と“暗い”ってなにが違うの?|中編
100人に聞きました!「あなたは黒を、どうとらえる?」
今回の種人・内藤琴絵さんのWONDERを受け、人それぞれが持つ「黒」に対する解釈やとらえ方を集めてみようと、2024年9月、10代~60代の男女100人にアンケートを実施してみた。
経験や知識の蓄積、または直感から生まれた回答をまとめながら、「黒」について改めて考えてみたい。
Q1. どこからが黒だと思いますか?色の境界線に振られた選択肢からお選びください。
純粋な白からグレー、グレーから純粋な黒へと移り変わる16色のグラデーションの中から、グレーと黒の境界を選択していただくというのが、Q1の問い。
実はこの問いには正解があり、純粋な黒はいちばん右のひとつだけ。明度という物差しにおいて、多くの方はどこからを黒だと認識するのかということを知る目的で、このような問いを投げかけさせてもらった。
集計結果を見てみると、少しずつ回答が割れてはいるものの、7割以上の方がNとOを選択。なかでもNからが黒だと答えた方がもっとも多く、視覚的に黒だと判断できるのはNからだと感じる方、またはNで迷われた方が多かったということが想像できる。
ただ、大半の方が、グレーの中でも限りなく黒に近いN、混じり気のない黒であるOを選んでいるというところから、少しでも明るさが入っていると感じた場合、「黒」だと認識しない方が多いことがわかった。
Q2. Q1でなぜその選択肢を選んだのか、理由を記入してください。
「ここからが黒だ」と選択した境界と、選んだ理由を聞いてみると、「比較対象がなかったら、これは黒だと思う」「ここまでは、白からグレーへのグラデーションにしか見えなかった」「少しでも他の色が混ざっていると感じたら、それは黒とは呼ばない」など、人それぞれの「黒の定義」が見えてきた。
またこの問いは、提示された色の、白と黒の割合などの情報は特に記載がないため、視覚情報だけがたよりとなる。16色それぞれに含まれる白と黒の割合はたしかに少しずつ異なっているのだが「NとOは同じ色に見えた」という意見もあり、人や環境によって、目に見える色に差が生まれるというのも、Q1、Q2を通して感じられたことだ。
Q3. 画像の中から、パッと見て黒だと感じる色を選んでください。(複数回答可)
こちらの問いでは、Q1の「明暗」に対し、「混色」というアプローチで、みなさんの黒の認識に迫ってみた。「RBGの混色比率が違う11種類の暗い色」のなかに「RGBの混色比率が0の純粋な黒」を1つ混ぜ、そこから黒に見えるものを選んでいただくことで「本当の黒とは?」「黒にも種類がある?」ということを考えてもらいたいというのが、問いの意図だ。
提示した12色の混色比率(=RGB値※)は、以下の画像を見ていただきたい。
※RGB値とは
パソコンやスマホなどのディスプレイにおける、色の表現方法。「赤(R)」「緑(G)」「青(B)」の光の三原色を用いて、それぞれの数値を設定する(R、G、Bをそれぞれどれだけ混ぜるかを決める)ことで、さまざまな色をつくることができる。(R,G,B)=(100,100,100)だと白になり、(R,G,B)=(0,0,0)だと、黒になる。
それぞれのRGB値を見ていただくとわかるように、純粋な黒は、実は「F」のみ。それを踏まえて、みなさんの回答結果を見てみると……
偏りは見られるものの、A~Lすべての色が選択されていた。視覚上、黒とだと判断できる色はたくさんある、ということだろうか。
Q4. 画像の中から、もっとも黒だと思う色を選んでください。
Q3と同じ12色の中から、今度は「もっとも黒だと思うもの」を1つだけ選んでもらった。結果を見てみると、濁りのない純粋な黒は「F」だと認識する方が多かったことが見受けられるが、それでも回答数は全体に対して39%と、半数以下。
ここでQ1の回答結果を思い出していただきたい。明るさのグラデーションの中から黒を選ぶ質問に対しては、ほとんどの方が純粋な黒寄りの色を選択できていたのに対し、Q3、Q4のさまざまな混色によってつくられた色の中から黒を選ぶ質問に対しては、思いのほか回答が割れるという結果となった。
人間の目は、明るさに対してはある程度共通の認識を持てるが、色合いに対しては認識にばらつきが生まれるということなのだろうか。人や条件によって認識差が生まれるというのも、黒が持つ不思議の1つかもしれない。
Q5. 「黒」を、幼児にもわかるよう、言葉だけで説明してください。
最後は「言語化する」というアプローチ。「黒ってなに?」に対して、改めて言葉で答える難しさを実感したという方もいたのではないだろうか。色々なたとえをしてみたり、想像をさせてみたり…説明の仕方は十人十色だったが、全体を見ていくと、回答が2つの傾向にきれいに分かれた。
ひとつは、光がない状態である「闇」。上のビジュアル左部分の回答を見ていただきたい。「闇」に分類される回答からは、目の前に広がる輪郭のない空間のようなものを想像させられる。
もうひとつは「色」。上のビジュアル右部分を見ていただきたいのだが「色」という分類のなかでも、大きく分けて2つのアプローチがある。
「絵具をたくさん混ぜるとできる色」など、WONDER第1回でも扱った「混色」という視点から黒を説明する方。または「おにぎりの海苔の色」など、物体が持つ色を想起させる説明をする方。アプローチの仕方は少し異なっているが、どちらにも共通しているのは「状態」ではなく、物体の色として存在しているというところだ。
Q6. 「黒」を、大人に、できるだけ詳しく説明してください。
Q5は幼児向け、Q6は大人向け。説明する相手を変えただけなのに、両者の回答結果に大きな違いが現れたのが非常に面白い。
Q6では、Q5で出た「闇」と「色」に分類される回答に加えて「その他」の回答が出現。しかも3つの分類の中で、回答数がもっとも多かったのだ。
回答の内容は上のビジュアル右部分を見ていただきたいが、以下のような回答も。
「人を選ばない、ダイバーシティな色(30代女性)」
「モータースポーツの世界では失格、経済の世界ではプラス。悪い意味でもよい意味でも身近にいる存在(40代男性)」
「唯一無二の存在。すべてを飲み込む。虚無(30代男性)」
全体の40%を占める「その他」で見られた回答は、おそらくこれまで生きてきたなかで出会ったさまざまな経験や、知識の蓄積によってつくられた「黒」に対するイメージ。
幼児に対しては、目に見えるものでシンプルに説明していたはずの「黒」が、大人への説明となると、とたんに複雑に曖昧になっていき、答えが1つに定まらなくなってしまう。
結局黒とはなんなのか?本質的なところは、案外、幼児に説明するようなシンプルな言葉に隠れているのかもしれない。
「黒」の本質とは?
WONDER第2回のアンケートでも、当たり前にある黒をあらためて見つめていただくことから、とても興味深く、黒の不思議さや面白さが感じられる回答にたくさん出会うことができた。
そんななかで、1つ傾向として見えてきたのが……明るさ(明度)と結びつけることで、人は黒を理解しやすくなるのではないか、ということ。
「白(もっとも明るい状態)から黒(もっとも暗い状態)」という明暗のグラデーションにおいては、多くの方が限りなく暗い部分を「黒」として選択。それに対し、さまざまな暗い色から黒を選ぶ問いでは、明るさではなく、色味や鮮やかさで判断していかなければならなかったためか、回答が複数の選択肢へ割れていた。さらに、幼児に対して黒を説明してくださいという問いに対しては、約6割の方が「真っ暗闇」「明るさが全くない色」など、「闇」を想像させることで「黒」という存在を説明している。
それらを通して考えると、「黒」と「闇」結びつきは、ますます強いものなのではないかと思えてくる。
「黒」と「闇」の関係性とは?
そもそも「黒い」と「暗い」の違いとは?
『黒の研究所』は、まだその正解に辿り着けていない。
後編では、製品開発を通して究極の黒を追求する方々とともに、黒と闇の関係性を探っていきたい。
____後編へ続く
内藤琴絵
「黒の研究所」研究所員
愛媛県出身。ものごころついたころから絵を描くことが好きで、高校時代にデザインやアートを専門的に学びはじめる。武蔵野美術大学を卒業後、消費財メーカーでデザイナー職を経験。現在は雑誌などの制作・出版とともに、さまざまなメディアプロデュースを行う株式会社EDITORSに在籍。整理された空間を好む一方で、縄や石など、自然の生命力を感じる有機的なチカラを信じている。最近感動したのは「闇」という文字の成り立ち。