今回の種人は...
内藤琴絵 研究員
黒にまつわるWONDER(疑問)を探求する場。
第2回のテーマは「闇と黒」。前編で石膏デッサンを実演してくださったセンザキリョウスケさんからは「“黒い”は固有色で、“暗い”は陰影」という答えをいただき、中編のアンケートでは、黒という存在を言語化するにあたって、専門的に説明しようと知識を巡らせるほど、答えは複雑に、掴みづらくなっている印象があった。後編では、専門家とともに闇と黒を探求していく。究極の黒をカタチにする方たちは、黒にどんなアプローチをしているのか?そして、闇と黒の関係性とは?

“黒い”と“暗い”ってなにが違うの?|後編

“黒い”と“暗い”の違い、光と闇の関係性について知るべく訪れたのは……埼玉県上尾市。ここに、「黒」に特化した素材の研究、開発、販売を行っている『暗素研』という組織がある。

黒をテーマにものづくりをしている専門家の視点とは?
疑問に対する『暗素研』としての答えをうかがいながら、黒の不思議を探求していきたいと思う。

究極の黒をつくりだす組織『暗素研』とは?

『暗素研』は、光陽オリエントジャパン株式会社内にある「世界をもっと、面黒く」というポリシーを掲げたチーム。液体塗料、布、ポリウレタンシートなど、さまざまな黒色素材の開発・研究を通して、黒にまつわるコンテンツの配信なども行っている。

■「真・黒色無双」(液体塗料)

暗素研が独自に開発した、世界一黒い水性アクリル塗料。一般的な黒色塗料が94.0~98.0%となるのに対し、「真・黒色無双」は、エアブラシ塗装をした場合、光の吸収率が「99.4%」となる。

“World’s Blackest Black”という売り文句とともにイギリスのアーティストが発表したアクリル塗料「Black3.0」と「黒色無双」の比較

■「太黒門」(布)

「99.9%」の光の吸収率を持つ、『暗素研』の中でももっとも黒い布。起毛布としての柔軟性や耐接触性を持つため、取り扱いがしやすく、写真撮影や展示品の黒背景として使用することで、まるで背景が存在しないかのような不思議な視覚効果を演出することができる。

左から、他社製品の光吸収暗幕シート、『暗素研』の「無反射植毛布」、「太黒門」の光吸収率比較

■「ファインシャットシリーズ(SP/極/極XX)」(シート)

カメラなど、光学機器内部の反射防止素材として開発されたポリウレタンシート。柔らかい材質で、0.22㎜という薄さを実現しているため、手軽にカット加工、貼り付け(※薄型両面テープと組み合わせる)を行うことが可能に。

塵が発生しにくいという利点から、一眼レフカメラのミラーボックス壁面の迷光防止部品として、長年採用されている

いよいよ『暗素研』の中へ

どのような黒と、また黒にまつわる不思議と出会うことができるのか。ワクワクしながら『暗素研』の中へと足を踏み入れようとしたところ…事務所の内部には、反射防止加工を依頼された預かり品が置かれており、入ることができるのは関係者のみとのこと。私たちは、本社の方へ案内していただくことになった。

会議室に通されると、こんなものがお出迎え。

前編のデッサンでも登場した、石膏像だ。どちらも同じ「アグリッパ胸像」だが、黒く塗られたものは、もはや平面である……。

今回お話をうかがったのは『暗素研』の立ち上げを行い、事業部長をされている清藤鉄平(きよふじ てっぺい)さん。

じっと見ていると限りなく奥行きがあるように感じられてしまうほどの深い黒を、どのように実現されているのか。また「黒さ」と「暗さ」の違いを、どのようにとらえられているのか。黒をこよなく愛する清藤さんに、聞いてみた。

Q 黒い素材をどのようにつくっているの?

「トゲトゲ構造」「穴ぼこ構造」。清藤さんはこれらを応用し、素材を開発しているのだという。
実際に『暗素研』で開発されている素材をミクロの視点で観察してみると、凹凸を利用した構造が用いられていることがよくわかる。

「真・黒色無双」(液体塗料)塗装部分(200倍拡大)。ツブツブの粉状塗膜を新雪のように表面に積もらせることで、光を隙間に閉じ込める
「ファインシャットSP」(シート)を電子顕微鏡で観察したもの。表面が微細な穴ぼこ構造になっており、光を反射させない

Q “黒い”と“暗い”って、なにが違うの?

究極の黒を探求する清藤さんに、WONDER第2回のテーマでもある疑問について、たずねてみた。多様なとらえ方がある「黒」を、清藤さんはどうとらえているのだろうか。

“黒い”と“暗いは”同じ……たしかに、光を逃さない小さな小さな空間(闇)を無数に並べる構造から、表面の黒をつくっている清藤さんの視点から考えると、黒と闇はイコールであると理解することができそうだ。あらためて、清藤さんにとっての「黒の定義」を聞いてみた。

最後に「光の吸収率」。これはどのように測定されているのだろうか。

実は、製品にうたっている「光の吸収率99.9%」というのは、「光の反射率0.1%」をわかりやすく言い換えたものなんです。私たちが実際に観測できるのは「光の反射率」。素材に対する光の反射率は積分球(せきぶんきゅう)のついた分光光度計で測定することができます。

光を入れる窓があり、光が出る出口にセンサー(検出器)が付いていて、積分球の内部は、入り口から入った光がどの方向へ反射しても、出口に向かうように設計されています。あらゆる方向に光が散った場合でも、散った光の総量を測定することができる。光の反射率を測定したい素材は「標準白板(※)」と交換して、配置します。

(※順番としては、まず標準白板で測定後、標準白板と測定したい素材を交換し、測定を行う。標準白板の測定データから、試験に異常がないかどうかや、試験環境で、どの測定値を反射率100%とみなすかの基準ができる。この順序で測定を行うことで、正確性の高い反射率が測定可能に)

黒を知るために、闇を理解する

『暗素研』がつくる「黒」は、光を迷わせて外に逃さない「闇」の集合によってできている。
たとえば「トゲトゲ構造」や「穴ぼこ構造」など「黒」のつくられ方を知ると、身近にある「黒」や「闇」の成り立ちが気になってしまい、意識すればするほど、また不思議は広がっていく。

「黒」と「闇」の距離感は、思っているよりも近いのかもしれないが……
私たちは、さらに深く両者について知り、考えてみる必要がありそうだ。

引き続き、日常に潜む「黒」にまつわるWONDERを再発見し、みなさんとワクワクを共有していきたい。

今回お話を聞いた人

清藤鉄平

黒を愛し、黒に愛された男。光陽オリエントジャパン株式会社の黒に特化したベンチャー組織、『暗素研』の創設者。カメラメーカーへの資材供給事業のためタイに6年間駐在。帰国後は自社光吸収素材の開発と越境ECシステム構築、光吸収処理の施工サービスに尽力し、現在は世界65カ国の顧客と取引を行っている。日本赤外線学会会員。

WONDERの種人

内藤琴絵

「黒の研究所」研究所員
愛媛県出身。ものごころついたころから絵を描くことが好きで、高校時代にデザインやアートを専門的に学びはじめる。武蔵野美術大学を卒業後、消費財メーカーでデザイナー職を経験。現在は雑誌などの制作・出版とともに、さまざまなメディアプロデュースを行う株式会社EDITORSに在籍。整理された空間を好む一方で、縄や石など、自然の生命力を感じる有機的なチカラを信じている。最近感動したのは「闇」という文字の成り立ち。