今回の種人は...
山下あい 研究員
黒にまつわるWONDER(疑問)を探求する場。
「WONDERの種人(たねびと)」が持つ原体験をもとに毎月1つテーマを掲げ、読者や専門家とともに「黒の不思議」を楽しく学ぶ。第3回のテーマは「黒のイメージ」。記事は毎週更新予定。

黒って、こわいの?|前編

みなさんは「黒い映画」「黒い花」「黒い空」のように、黒が形容詞として扱われたとき、どのような印象を抱きますか?

WONDER第1回の中編で実施したアンケートで、100人の方に「あなたの目の前に、一枚の『黒い絵』があります。それは、どんなモチーフを描いた作品でしょうか?」という質問をさせていただきました。
すると「黒い物体」「黒い空間」「概念(イメージ)」という3つに傾向は分かれる結果となりました。なかでも興味深かったのが、「概念(イメージ)」と答えた人の多くが、死、戦争、魔女、…などネガティブなものを連想していたことです。

しかし一方で礼服に用いるなど、重厚感や高級感を想起させる特別な色として黒を扱う文化も、多くの地域において、慣習とされています。現代社会を生きる人々にとって、黒とはどんなイメージを与える色なのでしょうか?

WONDER第3回のテーマは「黒のイメージ」。

今回は、山下あいさんからいただくWONDERの種をもとに、黒に対して抱かれるさまざまなイメージの根幹にあるのはいったい何なのか、探求してみたいと思います。

黒は、こわい色?不安をあおる色?

ちょうど秋から冬にかけての時期。当時小学生だった私が、実家で飼っていた黒い犬と散歩に出かけたときのことです。
家を出ていつものコースを歩いていると、思っていたよりも早く日が暮れ始めていることに気が付きました。少し急ぎ足で先に進んだのですが、中間地点を越えるころにはあたりは真っ暗に。いつも通っている道が暗闇に包まれると、なんだか静けさまで感じられて、ふと、こわさを覚えたんです。

日が暮れることで、公園の遊具、庭先の花、お店の看板など、カラフルだった景色がだんだんと暗闇に染まり、色を失っていって……
昼間は爽やかに見える緑地の木々も、夜になると黒いシルエットが溶け合って、まるで得体の知れない巨大な生き物が、ざわざわと音を立てながら私を見下ろしているように思えました。

思っていた以上に暗い視界、それに溶ける黒い犬。私は、完全に黒に包まれてしまいました……
見慣れているはずの風景が、黒に包まれるだけでどうしてこんなにこわくなるのか。不安に駆られながら、早足で家へと急いだのを覚えています。

黒は、美しい色?安心をくれる色?

いつもの道が暗闇に包まれて、日中は鮮明に見えていたものが黒いシルエットへと姿を変える。それに不思議なこわさを覚えたことが、私の黒にまつわる原体験として残っていたのですが……
大人になってみると、気づけば私は黒いものを好んで身に着けるようになっていました。

黒い服、黒い靴、黒い鞄。黒は主張しない色だからでしょうか。逆に、彩りのある色はあまり選ばないようになっていて。身に着けているとプレーンな自分でいられる気がして、染まっていない状態が心地よいというか…いつの間にか、黒に包まれる安心感すら抱くようになっていました。

黒という色から抱くイメージは、「こわい」だったり「死」だったり「戦争」だったり……多くの人にとってはネガティブなものなのかもしれないけれど、私にとっては、黒はひとつのイメージではまとめられない、不思議な色です。

うつろい、広がってゆく黒のイメージ

WONDER#3の記事を制作するにあたって、読者のみなさんが「黒」にどのようなイメージを抱いているのか、多くの声を集めようとアンケートを実施しました。音、手触り、香りなど、五感で黒を感じようとしたとき、人はどのようなものを連想するのか。具体的な回答は、中編にて公開予定です。集まったイメージは実に幅広く、黒という色の自由度の高さや深みを感じさせられるものばかり……。

そこで今回、みなさんによって多様に言語化された黒のイメージを作曲家でピアニストの平井真美子さんにご覧いただき、「音」というかたちに落とし込んでみようという試みを行いました。

「かたちのないイメージは、言語化によって共通認識を持つことができますよね。それに対して、音から共通認識を持つことってすごく難しくて……でも、だからこそ面白いし、さまざまなイメージを連想させる黒の性質とも共通しているものがあるなあと。みなさんによって広げられたイメージのなかに参加するような感覚で、音をつくってみたいと思います」(平井真美子さん)

一人ひとりの黒、集まり広がってゆく黒、その海のなかで紡がれた、平井さんの黒。
即興演奏によって生まれた黒の音が、こちらです。

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3つの黒の音を聴いて、みなさんはなにを思い浮かべましたか?
感情、物質、情景……過去の記憶が呼びおこされたり、新しい感覚に出会えたり、さまざまだったのではないかと思います。

それぞれの音が生まれる過程で、平井さんはなにをイメージしたのでしょうか。演奏後に語っていただいた内容は『黒の研究所』内のコーナー「ISSUE」にて、公開予定です。

言語化されたイメージは、音として生まれ変わることでさらに自由に、多面的になっていきます。
こわいのか、美しいのか、あたたかいのか、冷たいのか。
時間やバイオリズムによって表情を変える黒の不思議を、みなさんや専門家とともに、探求していきたいと思います。

___中編へつづく

WONDERの種人

山下あい

「黒の研究所」研究所員
インテリア業界で広報・PRを担当したのち、フリーのライターへ。ライフスタイル全般において、インタビューや取材記事を執筆。同時に、SUNDAY ISSUE / Cat’s ISSUEのメンバーとして商品企画やメディアに携わる。猫やカルチャー、料理が好き。