黒って、こわいの?|中編
「幼少期、暗闇がこわかった私。だけど大人になって、いつしか黒をプレーンな色、安心感をくれる色として身に着けるようになっていた。黒って、こわいの?それとも……?」
今回の種人・山下あいさんの原体験から生まれたWONDERを受け、『黒の研究所』では、2024年11月、10~60代の男女100人にアンケートを実施。
そもそも、黒をこわいと感じる人はどのぐらいいるのか。どのような体験から「こわい」というイメージは生まれているのか。
「こわい」だけではない黒のイメージは、100人に聞くと、どれほど広がりを見せてくれるのだろうか。黒と対峙してみたら、黒に触れてみたら、黒に耳を傾けてみたら……普段はあまり考えないであろう質問たち。さまざまな黒の表情を想像しながら、みなさんの回答を楽しんでいただきたい。
Q1. あなたにとって「黒」はこわいものですか?
「黒って、こわいの?」というテーマに対して、最も「こわい」を10、最も「こわくない」を1として、10段階で回答をしていただいたところ、「こわい」側(6~10)だと回答した方は、意外にも全体の約3割ほどという結果に。次の回答理由を見ていただくとわかるのだが、この偏りは、闇なのか、物質なのか、「黒」から何を連想したかによるものだと思われる。
Q2. Q1でその選択肢を選んだ理由を教えてください。
「こわい」側(1~5)を選んだ方の理由
■暗闇の中にいるとき、自分しかそこにいないように思えて孤独を感じる。また、他に何かがいても気付けないこわさがあると思うから
■闇、幽霊、犯罪、喪、のイメージがあるから
■得体の知れないもの、不気味なものを象徴する色であるような気がするから
■漠然と「黒」を考えたとき、終わりがない空間や深い海を想像してしまい、心臓がぎゅっとなるから
「こわくない」側(6~10)を選んだ方の理由
■黒は身近にある色というイメージなので、「こわい」と感じたことはありません
■落ち着いていて、静かで綺麗な色だと思うから
■宇宙をイメージする色で、宇宙は今でも広がり続けていると考えるとこわい色ではありません
■シック、クラシカルなどの印象が強いから
黒を「こわい」と感じる方の回答に共通していたのは「わからなさ」や「先が見えない状態」に不安を覚えるということ。「暗闇」や「真っ暗」というワードが目立ち、黒=闇ととらえての回答であるように感じられた。
一方で「こわくない」を選択していた方の多くは黒を「物質」としてとらえており、身近な色、美しい色、格式高い色など、位置づけこそさまざまだが、心が動いた体験やポジティブな経験の象徴として、黒が記憶されているのではないだろうか。
Q3. 「黒」をこわいと感じた体験はありますか? それは、どんな体験ですか?
■深海の動画を見たとき。ホラー映画を見た後の暗い部屋の中
■長野・善光寺の戒壇巡りはこわかったです。体験したことのない真っ暗闇でした
■子どものころ夜中に目が覚めたとき、暗闇が迫って来るような感覚におそわれた記憶が忘れられない
■子どものころ、喪服を着た人を見かけたとき
■色自体はこわくないが、すべてを巻き込んだ津波の黒や原爆投下後の黒い雨は映像や話だけでもこわいと思う
■黒塗りフルスモークのピカピカした車が近くを通ったとき、ぶつかったら何かあるかも!と思った
全体を通して多く見られたのは、幼少期の暗闇での体験。想像力が豊かで世界に未知が溢れている子どもにとっての闇は、大人が思う以上に、深く、奇妙に感じられるのだろう。ほかには喪服、津波、原爆など、「死」や「危険」を連想させる回答が見られた。
Q4からは、黒を、嗅覚や聴覚、触覚などの知覚で感じることができたら?という問いが並ぶ。さまざまな方向から黒と向き合うことで、イメージの奥に潜む体験や意識が、浮かび上がってくるかもしれない。
Q4. 「黒」から音がするとしたら、どのような音だと思いますか?
※「ポチャン」などの擬音語でも「失恋したときに心臓から聞こえる切ない音」などの想像描写でも可 自由に想像してください
擬音語から想像描写まで、さまざまな回答が集まった。例外も含まれるが、多くの回答に共通しているのは、どことなく寂しげで、静寂のなかでの響きである、というところだろうか。
Q5. 「黒」に温度があるとしたら、何℃くらいだと思いますか?
※人間の平熱を36.5℃とする
最も多く集まった回答は「0℃」。ひんやりとしたイメージなのだろうか。その次に多かったのが「35℃」、次いで「10℃」「15℃」となるが、35℃と回答した方の理由には「体温と近い温度」などが見られ、10~20℃あたりの回答では「暑くも寒くもない快適な温度」などがあった。
これらは、いずれも温度を感じないということに紐づきそうだ。つまり、大きく分けると「冷たい」もしくは「感じない」ということになる。
一方で、「0℃または5000℃くらいの高温」「-40℃と150℃」「変幻自在に温度を変える」「触れる/聞く/纏う対象と同じ温度になる」などの回答もあり、黒に対するイメージの自由度もうかがえた。
Q6. 「黒」に匂いがあるとしたら、どのような匂いがすると思いますか?
香りのイメージでは、上位に「炭」「焦げ」「墨」など、これまでの経験のなかで触れた「黒い物体」の記憶と結びついたものがいくつかあがった。一方で、冬の澄んだ空気や雨、冬の夜、夜の森、スパイスなど、大地の情景を想像させるような回答も。いずれも、精神を落ち着かせ、じっくりと味わいたくなるような香りだ。
Q7. 「黒」に触れられるとしたら、どのような肌触りだと思いますか?
「つるつる」「さらさら」など、スムースな肌ざわりを想像する回答が多いかと思いきや、「さらさら」と同率で「ざらざら」という回答が並んだ。肌を撫でるくらいの薄っすらとした肌触りをイメージする方から、しっかりと量感のある肌触りをイメージする方まで、Q7では一定の傾向にはまとめられないほどに、多様なイメージが集まった。
Q8. 「黒」に人格があるとしたら、どのような人を思い浮かべますか?
最後のQ8は、各々が思う黒の特徴が、シンプルに、わかりやすく表出した。それぞれが想像する人格は、どのようなイメージに由来しているのだろうか。イメージした理由とともに、人物を想像してみていただきたい。
■「無口でぶれないタイプ」 …硬質かつ存在感のある色の印象から
■「感情がない冷たい人」 …他の色に比べ主張が少ないように思うから
■「硬派、凛としている」 …締まったイメージがある色だから
■「深みのある人」 …いろいろな色を混ぜてできる、色の最終地点だから
■「自分を強く見せ、テリトリーに入らせない」 …過去、黒の装いが多かった方がそのような性格だったから
黒ってこわいの? その正解は?
そもそも、今回のテーマを「黒ってこわいの?」という問いとしてたてたとき、正解の仮説は「黒はこわい。なぜなら、見えないから」だった。『産業教育機器システム便覧』(教育機器編集委員会編 日科技連出版社 1972)によると「人間は視覚83%、聴覚11%、嗅覚3.5%、触覚1.5%、味覚は1%」といわれている。何かを認識するとき人間はほとんどを視覚に頼る生物だからこそ、「視覚が使えなくなる黒(闇)はこわい」のではないか、というものだ。
一方で、全体を通して感じられたのは、回答の幅広さ。もしも黒以外の色で同じ問いを投げかけていたら、これほど自由な回答が集まっていただろうか?
「黒」を物体として想像するか、闇など空間的なものとして想像するかという、2つのアプローチがあることも(それだけでもなさそうだが)、全体を通して多様なイメージが集まった一因と推察できるが、いずれにしても「見えないからこわい」だけではなく、黒から生まれるイメージは各個人の想像(感性や経験から連想される黒)との結びつきが強く、結果、回答の幅が広がったのではないかとも感じる。
イメージの根幹には、一体なにがあるのか。
後編では、専門家とともに黒のイメージにまつわる不思議を、探求していきたい。
山下あい
「黒の研究所」研究所員
インテリア業界で広報・PRを担当したのち、フリーのライターへ。ライフスタイル全般において、インタビューや取材記事を執筆。同時に、SUNDAY ISSUE / Cat’s ISSUEのメンバーとして商品企画やメディアに携わる。猫やカルチャー、料理が好き。