──前田さんは、現在2匹の猫と暮らしているんですよね?
はい。1匹は白と黒の「えいた」で、もう1匹は黒猫の「にんにん」。両方とも保護猫で、にんにんは親戚が保護した3匹の猫のうちの1匹でした。 最初は「一時預かり」という形で、人慣れさせて誰かに引き取ってもらおうと思ってたんだけど、全然慣れなかったんです(笑)。目も合わせないし、見てるとご飯も食べない。「これじゃあ誰ももらってくれないよなあ」なんて思っているうちに、情がうつっちゃったんですよね
──それで一緒に暮らすことになったんですね。「黒猫」って世間的にはネガティブなイメージがあるじゃないですか。その一方で「黒ネコのタンゴ」という曲があったり、『魔女の宅急便』の黒猫ジジみたいな可愛らしいキャラクターにもなっていたりして。
猫の歴史を調べてみると、「黒猫」の不吉なイメージは西洋から日本に輸入されたみたいですね。
昔は黒猫って「福を呼ぶ動物」みたいな言い伝えがあって。確か平安時代だったかな、「猫ブーム」もあったらしいんですよ。当時の天皇が、黒猫の可愛さについて絶賛する日記も残っているそうです(※1)。
──ネットで調べると出てきますね。「うちの猫は墨のような漆黒の毛色をしておりとても美しい。まるで韓盧(かんろ)のようだ」ですって(※2)。
そうそう。逆に西洋では、黒猫は魔女の使いとして登場する。
──なるほど。『魔女の宅急便』のジジが黒猫なのは、そこからきているのかな。
魔女は「悪魔と関わりを持った女の人」という、マイノリティに対する差別的な文脈があって、そこに黒猫も登場していたのがネガティブなイメージにつながった経緯だったんじゃないかなと。近代になって、日本にも西洋文化が入ってきたのと一緒に、そういう黒猫の不吉なイメージも定着してしまったのかも。
──日本の女子バレー選手が昔、「東洋の魔女」なんて言って畏怖されたのも、日本人の黒髪から連想されたものかもしれない(笑)。
日本で黒の「喪服」を着るようになったのも、明治時代からだったはずです(※3)。
──ところで前田さんは、どんなきっかけで保護猫に興味を持つようになったんですか?
もともとは、知人がネットで保護猫の飼い主を探していて。それで初めて保護猫サイトの存在を知ったんです。猫の写真を色々見ていたら、その中に俳優のスティーヴ・ブシェミみたいな(笑)、ヘンテコな顔の子が載っていて。それで「引き取りたい!」と思って会いにいったのが、最初に暮らした保護猫の「まこ」でした。
──そのまことの日々を綴った『まこという名の不思議顔の猫』は、書籍化されるほど大人気のブログでしたよね。
まこと出会うまでは、保護猫団体がたくさんあることも、個人でやってるシェルターが存在することも全く知らなかったんですけど、知れば知るほど興味を持つようになっていって。動物はもともと好きだし、猫も好きで実家で飼っていたっていうのもあるし、それから保護猫と暮らすようになっていきました。
インタビュー:黒田隆憲
※1 :現存する最古の天皇の日記『寛平御記』には、筆者である宇多天皇が父親・光孝天皇が飼っていた黒猫を譲り受けた内容が記載されている。
※2 :韓の国にいたとされる、俊足の賢い犬の名前。
※3 :当時、皇室で行われた葬儀に参列した欧米の賓客が、黒い喪服を着ていたことから日本でも黒い礼服が広まっていったと言われている。
前田敬子(まえだけいこ) ファッションデザイナー
2002年、ファッションブランド『ADIEU TRISTESSE(アデュー・トリステス)』をスタート。2020年 春より、『LOISIR(ロワズィール)』のデザイナーとして、リネン素材をベースに大人のためのスタンダードな服を提案している。保護猫のえいた、にんにんの飼い主。
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