“胡麻”のことを考えている時に、知り合いの編集者が若い頃、会社でジャンクな味の炭酸飲料を飲んでいると、自然食にはまっていた上司が近づいて来て「口を開けて」と言うので、素直に口を開けてみると胡麻を数粒放り込まれたという話を聞いた。そこにいた全員、笑いながら聞いていたが、今同じことをすると問題になってしまいそうという事はさておいて、古今東西で胡麻が身体に良いと言うのは周知の事実。

食料品店で胡麻が並ぶ棚の前、黒胡麻と白胡麻の違いについて考えた。そして金胡麻とは何だろう、最初は白胡麻の焙煎の違いか何かかと思っていたけれど、種類が違うのだそうだ。他にも茶胡麻や赤胡麻に緑胡麻も存在するらしいが、未だその3種類は、見た事すらない。それぞれの特徴を並べると、黒胡麻は野生種に近い品種で風味が強く、ポリフェノールの一種アントシアニンを含み、抗酸化作用が高い。白胡麻はまろやかな味、セサミンを多く含み、健康と美容に良く、最も多く生産される品種。金胡麻は皮が黄金色、香りが強くコクがあり、油分が多くゴマ油の原料としても人気、生産量が少なく高級品として扱われる。
我が家のキッチンにも、白黒金は常備しているけれど、その違いについて深く考えた事はなかった。使用頻度は、味がはっきりして香ばしい金胡麻の登場回数が多い。金と白は消費のスピードが早いが、黒は登場の機会が少ない。あると便利な煉胡麻は、白なら白身魚と和えて食べると美味しいが、何かの拍子に買った黒い煉胡麻は、ずっと棚の奥に潜んだままだ。黒胡麻は料理というよりも、お菓子に使われる機会が多いのかも知れない。中華の胡麻団子、和菓子の胡麻味というのも黒であることが多い。昔は、カフェに出かけると黒胡麻プリンなんていうスイーツもあった。


話は少し変わって、髪の毛がここ数年で白髪が随分と増えて、グレイヘアになってきた。かつてはその事を“ごま塩ヘアー”などと言った時代もある。僕の白髪は筋金入り、小学生の頃から生えており、すれ違う人にじろじろ見られ、傷つくような事を言われることもあった。心配した母親が小学校の高学年になった頃、白髪染めで真っ黒に染めてくれた。僕の髪は、白髪が見当たらなくなりすっかり黒くなったけれど、それも嫌だった。人の目を気にして、何かを隠す行為に強い抵抗を感じたからだと思う。僕の母方の祖父は、戦争の時に火傷を負った為、顔の半分位の皮膚が青あざの様になっていた。いつもベレー帽を被って、穏やかで優しい祖父が好きだった。家が近いこともあったから、小さい頃はよく面倒を見てもらった。一方で父方の祖父は建設会社を経営、父親もその会社に在籍、たくさん人が集まるようなパーティーや催しがあるとき、そこに母方の祖父母の姿はいつもない。少し大きくなってから、僕がその理由を尋ねたときに、祖母が「本当はね、要君の側にいたいけど、じいじのことを変な目で見る人もいるかも分からないから、要君やママやパパに迷惑をかけたくないのよ」とゆっくり優しく話してくれた時、僕はたくさん泣いたことを覚えている。言葉に出来ない、やり場のない強い怒りの感情を初めて抱いた。母方の祖父の存在とその反骨精神で、僕は白髪を染めるのが嫌だったのかも知れない。

ちなみに黒胡麻は髪を黒くして、白髪を抑制する効果も期待されている。子供の頃に母が作ってくれたお弁当のご飯の上には黒胡麻がかかっていた、胡麻和えも黒胡麻だったのは、もしかしてその為だったのだろうか。効能について調べている時に、そんな事を思い出した。遠く儚い記憶を辿ってみるが、今となっては知る由もない。
黒い食べ物は、とにかくポリフェノールが豊富で生命力に溢れている感じがする、毎回取り上げた黒い食材をたくさん食べなくてはという気持ちにさせられている。今回は、手軽に胡麻の成分を余すことなく身体に取り込めるように、すり潰してペースト状になっている、黒煉胡麻を使った簡単なお汁粉のレシピです

<黒胡麻のお汁粉> 2人前
材料
・黒煉胡麻 大さじ4
・あんこ(粒でもこしでも) 150g
・水 100cc
・切り餅 2個
作り方
1 鍋に黒煉胡麻、あんこ水を入れて弱火にかけ、切り餅を焼く。(濃い場合は水を少しずつ加える)
2 器に1を盛り付けて、焼いた餅を乗せたら完成。
お正月の名残りのお餅や、あんこをぜひ活用して作ってみて下さい。

麻生要一郎(あそうよういちろう)
料理家・執筆家。家庭的な味わいのお弁当やケータリングが評判となり、日々の食事を記録したインスタグラムでも多くのフォロワーを獲得。自らの経験を綴ったエッセイも人気で、現在は雑誌やウェブサイトでの連載も多数。最新刊は「365 僕のたべもの日記」(光文社)黒い服を着ると愛猫チョビの毛が、あちこちについている。