──猫は、前田さんのクリエイティブにどんな影響を与えていますか?
2014年のコレクションは、それこそ猫をテーマにしたんです。猫のオッドアイ、黄色とブルーの目の色からインスパイアを得たり、白猫や三毛猫のカラーを組み合わせたパッチワークやストライプをデザインしたりしました。イラストレーターのトラネコボンボン(中西なちお)さんにも猫のイラストをお願いして、それ以降は毎年、中西さんの猫イラストを使ったアイテムを必ず出すようになりましたね。
──前田さんの猫好きが全開になったコレクションだったのですね(笑)。反響はどうでした?
すごく良かったです。自分自身は猫が好きすぎて、猫柄の服を着るのがちょっと照れくさい気持ちもあったんですけど、みんな素直に着てくださってとても嬉しかったですね。実際、作ってみるととても魅力的。プリントや刺繍にしてもかわいくて。猫は種類や柄が違っても、形自体はそれほど大きく変わらないじゃないですか。犬のように顔や大きさ、体型が種類によって全く違ったりしないから、シンボルとしても使いやすいのかもしれない。
──ところで、ファッションデザイナーとして「黒」という色についてはどんなイメージを持っていますか?
黒のスーツって「勝負服」みたいなもので、面接に行く時は黒を着ると強く自信があるように見えるとも言われます。その一方で、冠婚葬祭の時に着る「黒」は、悲しみの日にはすましやかに見えるし、同時にエレガントでもあるなと思います。
生地の話になると、黒に染めるのってすごく大変なんですよ。染料の定着も強くしないといけない。そう考えると黒ってやっぱり特別な色なのかもしれませんね。黒っていろんな色が混ざり合った色だと思うんですよ。だからこそ慎ましくもあり、同時にパワーもある。そういう多面的なところが好きなのだと思います。
──黒い服というと、個人的に川久保玲さんや山本耀司さんのイメージが強いです。
私も学生時代に川久保さんとか山本耀司さんに憧れていた世代です。さっき話したような要素を、彼らは全部集めて表現していたと思いますね。特にYohji Yamamotoは黒をメインにしたスタンダードなブランドですし。あとは1960年代のGivenchyも黒を多用していたので、そういった刷り込みがあるのかもしれませんね。
──そういったデザイナーたちからの影響もありますか?
こうやって話していて、確かにその影響はあるかもしれないと思いました。高校生の頃とかcomme des garconsに憧れていたし、それが黒のイメージとしてベースになっている部分はあるのかも。人によっては黒が苦手な人もいるし、黒を着るのを避ける人もいるけど、私にとっては始まりがそこだったから、黒は好きな色なんです。
──好きなデザインや色は、やはり「好き」を追求しているうちに見えてくるものですか?
最初にADIEU TRISTESSEというブランドを立ち上げた時、「オフボディシルエット」と「経年カラー」というテーマを打ち出したんです。明るい色よりも、そういった少し渋い色が好きで、シルエットも昔からAラインのような、体にフィットしすぎないデザインにしていたんです。
なぜ、自分はそういうテイストが好きなのか、当時はうまく言語化できなかったんですよ。でも、服だけじゃなくて映画や音楽、文章でも、何かこう詰め込みすぎていない「間」があるものが昔から好きだったなって。だから洋服も、体にぴったりとくっつくボディコンではなくて、体から少し浮かせたデザインが好きなのかもしれないって、ある時に気づきました。ボディコン世代なんですけどね(笑)。
インタビュー:黒田隆憲
前田敬子(まえだけいこ) ファッションデザイナー
2002年、ファッションブランド『ADIEU TRISTESSE(アデュー・トリステス)』をスタート。2020年 春より、『LOISIR(ロワズィール)』のデザイナーとして、リネン素材をベースに大人のためのスタンダードな服を提案している。保護猫のえいた、にんにんの飼い主。
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