黒ネコ通信
前田 敬子 研究員

「黒ネコ通信」

研究員の前田敬子さんが、 黒ネコ “ニンニン” との暮らしについて インタビュー形式でお話が進むコラムです。

第4回   ネコから生まれたコレクション_2

──前田さんは黒猫「にんにん」と暮らしていますが、黒猫をモチーフに服を作ったことはありますか?

それこそ「にんにん」のニットを作ったことがありますよ(笑)。にんにんがドーンと転がっているデザインで、ジャガード編みで背中に配置しました。LOISIRは服だけでなくオリジナルの雑貨も結構作っていて、食器の作家さんとコラボしてにんにんのお皿も作りました。反響はとても良かったです。特にニットは大人気でしたね。やっぱり黒猫ってスタイリッシュなんですよね。

黒ネコの「にんにん」。

──LOISIR(ロワズィール)では毎シーズンとてもユニークなテーマを掲げていますが、いつもどういうところからアイデアを得ているのですか?

たとえば川村記念美術館へ行って「ロスコ・ルーム(マーク・ロスコの壁画の専用展示室)」を見てそこからインスパイアされたり、池袋にある自由学園明日館へライブを見に行き、そこで見たフランク・ロイド・ライトの建築物からヒントを得たりしました。そんなふうに、まず自分の気持ちが上がるものを題材にしようと思って、そこからどうやって服に繋げられるかを考えています。

──ご自身が好きなものをテーマにしつつ、それを商品として「売れるもの」にしていくのは難しくないですか?

服ってアートではないし、「着て動く」という制限があります。誰かに見られることや売り物であることが前提ですが、その制限というか、ルールの中でテーマを考えることが意外と楽しいんですよね。アートのように自由に何でもできるわけじゃないけど、その縛りの中で着ている人を想像すると、ちょっとクスッと笑っちゃうようなデザインができたりするんです。それがまた楽しさの一つなのかもしれません。

──クリエイティブな仕事を目指している人たちに、日常の中から創作のヒントを得るコツみたいなものを教えてもらえますか?

えー、そんなおこがましいことは言えないけど(笑)、好きなものや好奇心を絶やさないことが大事なんじゃないでしょうか。それも、「自分の好きなものはこれ」と決めつけず、何でも興味を持つことが大切なのかなと。

自分の場合は「フィルター」が一つあって、それを通せば何でも服に落とし込めるんですよね。たとえば「フィフティーズファッションだけが好き」という人もいて、それはそれで一つのことを突き詰められるかもしれないけど、私の場合はモチーフが宇宙でも動物でも、好きなものならなんでもいいんです。

ちらり、とこちらを伺う。一緒に暮らして9年が経っても、野良猫時代のような警戒心を見せることがあるそう。

──たとえば音楽しか興味がない人の作る曲より、それ以外のものからたくさんインスピレーションを得ている人が作る音楽のほうが豊かであったりするように、「ただ服だけが好き」という人より、いろんなものに興味を持っている人の作る洋服の方が魅力的な気がします。

そういえば坂本龍一さんも自然科学とかがすごく好きで、福岡伸一さんと対談したりしているじゃないですか。それを読んでものすごく共感したんです。音楽以外の様々な分野に興味をお持ちで、もちろん若い音楽家も積極的にフックアップしつつ、様々なアートやカルチャーに触れていたからこそ豊かな音楽が生まれていたのだなって思います。私自身、普段から「よし、これを洋服に落とし込もう!」とか意識はしていませんけど(笑)、見たもの聞いたもの、触れたものから自然と影響を受けているのかもしれないです。

──いろんなものを吸収しておくと、後になって「あれとこれが繋がったんだ」と気づく瞬間があって、それが面白かったりしませんか?

確かに。自分の興味や可能性って、自分でも分かっていないことが多いですよね。自分の「好き」の範囲を決めつけず、いろいろなものを取り込んでいくことで、それが混ざり合って豊かな「黒」が生み出せるかもしれません。

──テーマが「黒」ということで、綺麗にまとめてくださってありがとうございます。

あははは。

インタビュー:黒田隆憲