黒ネコ通信
前田 敬子 研究員

「黒ネコ通信」

研究員の前田敬子さんが、 黒ネコ “ニンニン” との暮らしについて インタビュー形式でお話が進むコラムです。

最終回 あらためて、黒猫の魅力とは?  

── 以前『魔女の宅急便』に登場する黒猫ジジの話をしました。黒猫が出てくる映画で他に印象的なものってありますか?

実は黒猫がメインで登場する作品は意外と少なくて。その中で思い出したのが、青山真治監督の映画『空に住む』(2020年)、主人公は多部未華子さん演じる女性で、両親を亡くした後、親戚から譲られたタワーマンションで黒猫と一緒に暮らし始めます。この黒猫は彼女にとって特別な存在として描かれているんです。

あと、『マトリックス』(1999年)での黒猫の使い方がとても印象的でした。黒猫がデジャヴを象徴する存在として登場するんですよ。同じ猫が2回、ヒュッと通り過ぎるシーンがあって、これは夢の中で何かが変わった「サイン」になっている。「誰かが夢を操作している」「ここでトラブルが起きた」ということを視覚的にうまく伝えています。

── 黒猫がデジャヴの象徴として使われているんですね。

これがもし茶トラ猫だと、なんだかほっこりしちゃうじゃないですか(笑)。黒猫だからこそミステリアスだし、ちょっと不穏な空気が出ているんだなと。そこがまた面白いなと思います。

ちなみに最新作『マトリックス レザレクションズ』(2021年)でも前作のオマージュとして、黒猫のシーンが使われていました。 監督のウォシャウスキー姉妹が猫好きなのかもしれないですね。

にんにんも、愛嬌たっぷりながら、どこかミステリアスな雰囲気を合わせもっている。

──「黒猫」に限定しなければ、映画にはたくさんの猫が登場しますよね。

猫好きなら『ティファニーで朝食を』(1961年)はきっと知っているんじゃないかな。『ロング・グッドバイ』(1973年)ではフィリップ・マーロウが、茶トラ猫を飼っていましたよね。日本映画だと、おすすめは小泉今日子さんが主演の『グーグーだって猫である』かな。大島弓子さんが原作で、 登場するアメリカンショートヘアの猫がとても愛らしいんです。

──絵画でもよく猫がモチーフになっていますよね。お気に入りの絵はありますか?

有名なところだとレオナール・フジタはよく猫を描いていましたね。どれもとても可愛くて、彼自身の猫好きが絵からも伝わってきます。

最近気になっているのは、ウラジミール・ドゥニッチ(Vladimir Dunjic)というアーティスト。『Woman with Cat』というシリーズが素敵なんです。どこかボッティチェリを思わせる古典的な雰囲気に、モダンな要素が融合していてすごく惹かれます。残念ながら画集はまだ出ていないようなので、サイトをチェックしています。

──猫好きの文豪やアーティスト、クリエイターは多い印象です。ヘミングウェイも大の猫好きとして知られていますよね。

ヘミングウェイが住んでいたフロリダの家には、たくさんの猫がいたんですよね。特に「六本指の猫」が有名で、その子孫たちは今でも彼が遺した家に暮らしているそうです。猫の自由で気ままな性格は、アーティストやクリエイターを虜にするのかもしれない。

クールそうに見えて、とっても甘えん坊な一面も。

──前田さんは、どんなところに猫の魅力を感じていますか?

「私は誰かの所有物じゃない」というスタンスでクールに振る舞う一方、臆面もなく甘えるし、私が落ち込んでいると、達観したような態度でなだめてくれることも。そのアンバランスさが猫らしさであり、魅力じゃないかな。

──6回にわたって黒猫や黒という色についてお話しいただきました。改めて、黒猫や黒という色は前田さんにとってどんな存在でしょうか?

黒はすべての色を混ぜ合わせたような存在で、シックでエレガントにもなれば、恐怖や威圧感を感じさせる象徴にもなる。洋服においても、他の色にはない表現の多様性を持っていて、とても興味深い色です。もちろん、にんにんは愛おしくて特別な存在。これからも好奇心を刺激し続けると思います。

左右の目のカラーが異なる “オッドアイ” の持ち主、にんにん。そんなところも相まって、前田さんの好奇心を刺激し続ける。

インタビュー:黒田隆憲