1965年11月9日、ニューヨークを含む20万m2、3,000万人以上に被害を及ぼす大停電が発生したことを知っているだろうか。夕方から半日近く続いたため、ニューヨークの街は真っ暗な闇に包まれた。電源から独立した車のヘッドライトやバス車内のライトが街中を部分的に照らし、懐中電灯や小さな蝋燭が不安な人々の側で光を灯していた。
いつ復旧するかもわからず、暖房もない寒い夜を経験した人にとって長い夜だったであろうその時間、ニューヨークの街中を歩き回っていた人がいる。報道写真集団マグナムに所属していた写真家のルネ・ブリは、5番街の59丁目と42丁目の間(ニューヨーク・プラザとグランド・セントラルの間)で暗闇に浮かび上がる都市と人の様子を撮影して回った。
多くが闇に包まれながらも不思議とそこに混乱の気配はない。警察の統計によれば、この日、ニューヨークで起きた略奪事件は5件以下だったそうだ。僅かな光を頼りに撮られ、吸い込まれそうなほとんど真っ黒な写真もある。闇に声が吸収されていくような静けさと不安そうな顔が浮かび上がる。人々は闇の中でどんな時間を過ごしたのだろうか。
Rene Burri https://www.magnumphotos.com/photographer/rene-burri/
山口博之 (やまぐち ひろゆき)
ブックディレクター/編集者。1981年仙台市生まれ。立教大学文学部卒業後、旅の本屋BOOK246、選書集団BACHを経て、17年にgood and sonを設立。オフィスやショップから、レストラン、病院、個人邸まで様々な場のブックディレクションを手掛けている。出版プロジェクトWORDSWORTHを立ち上げ、折坂悠太(歌)詞集『あなたは私と話した事があるだろうか』を刊行。猫アレルギー。
https://www.goodandson.com/