「黒は、当初から人が自己を埋没させるのに用いる色だったようだーー黒という色の無色性が人の自己を抹消し殺してしまうのである。黒は闇にまぎれて恐怖におとしいれる曲、地下に棲む神々の色、地底の世界からたちのほってくる恐怖の力の色だった。キリスト教の教会の内部に取りこまれて利用され発展したのが、黒のこうした多くの価値のうちの最初のものだった」
古くから闇や夜を連想させ、不吉な意味を付与されてきた黒。それゆえ葬式や喪にまつわる服は黒であることが多いが、なぜ普段着る服にまで黒色が普及してきたのか。それはどう着こなされ、社会に受け止められ、人や階級、意味を表現し、現代の黒のファッションにまでつながってきたのか。シェイクスピアからボードレール、ディケンズなどの文学作品をはじめ、様々な西洋絵画に描かれた黒い服から社会学的、歴史学的視点から描き出す。
「社会的階級が定めた段階を踏みはずすとか、それを無視したりする一方で、黒に備わった厳粛さによってただちに義務感にあふれたエリートを作り上げてしまう」
黒服を纏ったナチスの親衛隊存在へ繋がるようなものとして、黒い服には権力を生み出していくこうした社会学的な二重性があるという。自己を埋没させ、従来的な社会的階級から外れながらも、エリートであるように、黒は半道徳的なエリートをカモフラージュすることになったのだという。黒い精神をカモフラージュする黒い服。
時代ごと黒が表彰する精神は多様に変化してきた。現代の黒衣は何を意味するだろうか。
『黒服』
著者:ジョン・ハーヴェイ
訳:太田良子
出版社:研究者
山口博之 (やまぐち ひろゆき)
ブックディレクター/編集者。1981年仙台市生まれ。立教大学文学部卒業後、旅の本屋BOOK246、選書集団BACHを経て、17年にgood and sonを設立。オフィスやショップから、レストラン、病院、個人邸まで様々な場のブックディレクションを手掛けている。出版プロジェクトWORDSWORTHを立ち上げ、折坂悠太(歌)詞集『あなたは私と話した事があるだろうか』を刊行。猫アレルギー。
https://www.goodandson.com/