15世紀にヨハネス・グーテンベルクがドイツのマインツで鉛金属活字による活版印刷を開始し、世界を大きく変えることになる。大量に刷られ、誰もが同じものを読めるようになることは、確実に時代を画する大きなできごとだった。
2025年4月26日から7月21日まで印刷博物館で開催されている展覧会「黒の芸術 グーテンベルクとドイツ出版文化史」の図録である本書。展示は、グーテンベルクにはじまる活版印刷と印刷出版文化を俯瞰し、グーテンベルクの影響とその後の書体文化をめぐるものであり、図録は展示された歴史的な印刷物を数多く掲載している。
今でさえ印刷された文字の色、もしくはディスプレイに表示される色として誰もが思い描くのは黒だが、グーテンベルクが最初の聖書を印刷するために使った書体も “ブラックレター”と呼ばれた平ペンで描かれた縦線の太い書体であり、その名から導かれるように版面(ページ)自体が黒々しくなった。
タイトルの「黒の芸術」はドイツ語を「Die Schwarze Kunst」を訳したものだが、「Schwarze」は黒、「kunst」は美術や技術などの意味であり、「Die Schwarze Kunst」は黒色の活版印刷技術を指す言葉であると同時に、「黒魔術」も意味している。技術として存在しながら、たしかに魔術的でも、美術的でもある。文字における黒は、ただ視認性ということだけでは片付けられない。
印刷博物館
「黒の芸術 グーテンベルクとドイツ出版文化史」
https://www.printing-museum.org/collection/exhibition/t20250123.php
『黒の芸術 グーテンベルクとドイツ出版文化史』
企画編集:式洋子(印刷博物館)
出版社:印刷博物館
山口博之 (やまぐち ひろゆき)
ブックディレクター/編集者。1981年仙台市生まれ。立教大学文学部卒業後、旅の本屋BOOK246、選書集団BACHを経て、17年にgood and sonを設立。オフィスやショップから、レストラン、病院、個人邸まで様々な場のブックディレクションを手掛けている。出版プロジェクトWORDSWORTHを立ち上げ、折坂悠太(歌)詞集『あなたは私と話した事があるだろうか』を刊行。猫アレルギー。
https://www.goodandson.com/