
ブラックホールって、黒いの?|中編
「ブラックホールをその身で観測してみたい」という今回の種人・飯塚大和さんの原体験から生まれたWONDERを受け、『黒の研究所』では第5回のテーマを「ブラックホールと黒」に設定し、100人アンケートを敢行した。
あまりにも未知なる存在であるブラックホールに対してのイメージ調査では、映画や空想科学作品からの影響を多分に受けた回答が多くを占めたが、中には独特の向き合い方をする人もちらほら。“ブラック”というワードがその名称に使われているので、黒い印象があるというのは前提として、各々が様々なアプローチでブラックホールという存在を観測していることをうかがい知れるだろう。
天文学を履修でもしなければ、そこまで真剣にブラックホールへ熱い視線を向けたことがないであろうブラックホール。途方もないスケールをもつ謎に満ちた存在へ、ひと時の思考を向けることで想像力が広がり、新たな気づきへと導かれることがあるはずだ。後編のアンサーを前に「ブラックホール」への意識を、個性あふれる皆さんの回答とともに楽しんでいただこう。
Q1. ブラックホールとは一体どのようなものだと思いますか?

ここでは自由回答をしていただいたものから核となるキーワードを抽出して計測を行った。TOP10に浮かび上がったのは、一般的に認識されるブラックホールへのイメージが多かったものの、正面からの視点ではない「宇宙空間の安定役」というキーワードが2位になった。ある種、“陰”のイメージが付きまとうブラックホールを、まったくの逆で、必要なものとしてポジティブにとらえる向きは興味深い。 そして「黒い」に関してはランキング外で、わずか2回答でしか見られなかった。このことからも、ブラックホールが黒いことに関しては、その名が示す通りに当たり前のこととして脳に刷り込まれているのがわかる。
また、ユニークな視点でブラックホールを見つめた回答を以下にいくつか紹介しておこう。
■人類に対して夢と無力さを同時に与える存在
■宇宙空間の果てでありとあらゆる物質を吸い込み、全宇宙から出る不要なものを無きものにしてくれる
■今生きている世界が本当に実在しているのかどうかをうやむやにするもの
陰陽の双方を持つというイメージや、宇宙のごみ処分場であるという意見、禅の世界をも思わせる答えに辿り着かない答え……。未知であるがゆえに、ブラックホールへの興味は留まるところを知らない。
Q2. ブラックホールは宇宙にいくつあると思いますか?

回答で一番多かった「1個」「それ以上(1兆個以上)」が同着1位という結果になり、アンケート選択肢の最小値と最大値ということも相まって、ブラックホールに対するイメージに極端な隔たりがあることがわかった。現在の研究で実際に推測されている数値は上の図にも示した通り、40000000000000000000(4000京)個という、もはやどのくらいなのか想像すらつかない数である。数値のある選択肢は1兆個までとしたため少し意地悪な質問だったかもしれないが、正解にもっとも近い「それ以上」の回答が31.5%を占めており、意外とブラックホールへの解像度が高いということに驚く。
Q3. もしブラックホールに突入したら、どのようなことが起こる、または起きてほしいと思いますか?
【多く見られた回答】
■別の場所へ移動する(異世界/異次元/異空間/違う時代/ホワイトホール/地球へ帰還 等)
■消滅する(生存不可能/潰れる/無に帰す/塵となる/燃える 等)
■永遠に漂い続ける(何も見えない/虚無/闇の中に埋まる/永久に浮遊状態 等)
多数派を占めたのはやはり「ホール」という単語から連想しやすい、どこかへの転移をもたらすというもの。他には、ブラックホールに対する畏怖からくる負のイメージを投影したであろう、すべて無くなってしまう、抜け出せない、という方向の回答が多く寄せられた。
一方で、古来よりブラックホールという存在はSFやファンタジー作品との相性が良いので、様々な物語からインスピレーションを受けた回答も以下のように多く見られた。
■進撃のエレンの道みたいな場所にたどり着きます!
■カオナシが団子を食べて全てものを吐き出したのと同じように、ブラックホールが過去に吸収・吸着したもの全てを、自然界に対して無害の物質に変換した状態で解き放ったら面白い
■映画「インターステラー」のように、5次元など別次元にたどり着くことや、時空を超えることができるというのを期待するが、実際は物質の原型を留めることは不可能
と、最後にあまりにも牧歌的で平和な回答に笑みがこぼれてしまい、どうしてもピックアップせざるを得なかったものを紹介。なんともほのぼのしていて、ブラックホールに対する底知れない恐怖がスーッと消えていくようである。
■ゆったりと渦に吸い込まれ、身をゆだねているうちにいろいろなことがリセットされる。身体の不調という不調がすべてなくなったら裏の出口からポンッと地球に戻れる
Q4. ブラックホールの中心で音が聞こえるとしたら、どのような音だと思いますか?
この質問に対する回答は中々に興味深く、自由回答であったにもかかわらず、大多数の人が以下に示す3種類のうちのどれかに至る結果となった。
■無音
■重低音(ゴォー/ドォー/ゴゴゴゴ/地鳴りの音/除夜の鐘/唸り 等)
■金属音(キーン/神秘的な音/不協和音 等)
そんな中、感性の豊かさを感じさせる情緒的な回答も複数見られたのでここに紹介しよう。
■大雪が降った朝のような、音の無さを感じられる静音
■直接脳にだけ聞こえるような音というか感覚
■アンビエントっぽい音。ホワホワホワワーンって空間に響くような落ち着いた音。聴きながら寝れそうな感じ
Q5. ブラックホールを体感できるとしたら、どのような感触だと思いますか?
【多く見られた回答】
■冷たい(乾燥した冷気/-273℃/肌寒い/凍える/極寒 等)
■適温(春/包まれるような暖かさ/ぬるい 等)
■無臭
■何も感じない
温度、香りに関する回答が圧倒的多数で、それ以外だと湿度、触り心地などに複数回答が見られた。「冷たい」が最も多い回答だったが、反対に熱い・暑いという回答は少数で、中間の適温が第2位の回答数だったのは面白い。香りは無臭が最も多く、基本的ににおいに関しての印象は極めて少ない結果となった。また、わずか1回答のみだったのが味に関する印象。インスピレーションのもとではあるものの、まさかブラックホールを舌で感じてみようとは夢にも思っていなかったが、「ほんのり甘い」に1票が入った。
きっとこの質問で、自身をブラックホールへ脳内トリップしていただけた結果かと思うが、以下のように、独特の感触を体験したのであろう回答も多かった。
■古代の図書館のような、カビくさく古めかしい香り。死の訪れを感じさせる春のような暖かさ
■涼しい、サンダルウッドのようなお香のような神秘的な香り
■ちょうどいい気温。テックっぽい素材の服を着ていきたい
Q6. ブラックホールのエネルギーとはどのようなものだと思いますか?
【多く見られた回答】
■吸い込む力(掃除機のような/ゆっくり深い吸引 等)
■重力・引力(引き付ける回転/渦を生み出す力 等)
■エネルギーなど存在しない(虚無/黒い穴でしかない/ただそこに存在する 等)
■強いエネルギー(無限のエネルギー/太陽の何億倍/何にも劣らない/空間を歪める 等)
ブラックホールを映像化した作品などでは渦状で描かれ、回転しながら吸い込むイメージが強いということもあり「吸い込む力」が圧倒的多数の回答だった。重力・引力に関しても回転力を挙げる回答が多く、そのパブリックイメージは強固であることが伺える。また、強力なエネルギーをもつという回答と、エネルギーが存在しない無であるという回答が第3位、第4位で拮抗した。
Q7.ブラックホールのエネルギーを活用できる未来が来たら、どんな製品・サービスが生まれると思いますか?

吸い込むという部分を突き詰めた製品や、強大な重力を活用したもの、また、そのエネルギーを別軸で活用するプランなど、現在の技術では実現不可能な画期的アイディアが集まったこの質問。中でも多かった回答は、ブラックホールの特徴やイメージを生かしたものだった。
【多く見られた回答】
■何でも捨てられるごみ箱(有害物質処理/循環式/世界のごみ削減/ゴミ圧縮 等)
■ワープ・転移ができる装置(高速移動サービス/多次元の往来/どこでもドア 等)
■代替エネルギー(自動車の動力/ロボットの動力 等)
その強大な重力で、全てを引き寄せ圧縮するブラックホールの原理を考えると頷ける「ごみ箱」としての発想が大多数の回答となった。確かに、たったひと欠片だけでも世界のゴミ問題が解決してしまいそうではある。次に多かったのは、科学的願望として誰もが夢想するだろう「どこでもドア」などのワープ系アイテム。ほか、現在地球上にある様々なエネルギーを切り替えることで環境負荷も低減できそうな「代替エネルギー」も上位を獲得した。
全体的に荒唐無稽なものはそれほどなかったが、ブラックホールをマッサージ機代わりに使おうとする猛者から得られた「リラックス」という回答が実に面白い。想像するに、全身のコリというコリが一瞬で無くなりそうである。
Q8.ブラックホールは、なぜ黒いと思いますか?
【多く見られた回答】
■光を飲み込むから(吸収するから/重力に取り込まれる 等)
■あらゆるものが混ざって黒くなる(色彩の原理と同様/混沌の色 等)
■実は黒くないかもしれない(証明されていないから黒/わからないから/黒く見えるだけ 等)
最後は今回のWONDERに対する直球的な質問を投げかけてみたが、一般的なイメージと同様に「光を飲み込むから」という回答が第1位となったのは納得。様々なものを飲み込むことで、色が混ざって最終的に黒くなるという回答も多く、これはWONDER第1回の疑問に対し、完全な黒にはならないものの色を混ぜると限りなく黒へ近づくという解にも繋がる、WONDER読者ならではのインスピレーションと言えるのではないだろうか。注目すべきは「実は黒くないかもしれない」という回答だ。実に鋭さもあり哲学的でもある思考だが、果たしてその解が辿り着く先は?
中にはそういう視点もあるか、と手を打ってしまうような、想像力に富んだ回答も寄せられた。
■あまりにも広大なために色が極限まで薄くなり、結果として黒く見える
■エネルギーが強すぎて人間のもつ機能では黒く認識される
■光も何かに生まれかわっていく途中で、何でもあるけど何も(光も)ない状態だから
科学的にそうかもしれない、という回答のほかに“光も何かに生まれかわっていく途中”という考え方には、宇宙自体が膨張と進化を続けているという謎にも通ずる一種のひらめきすら感じさせる。
次回の後編では専門家によるアンサーをお届けするので、ぜひ答え合わせをしてみてほしい。
未知なるものへの疑問が想像を膨らませ、WONDERを芽吹かせる
あまりにも未知であり謎が尽きることのないブラックホールだからこそ、
そのことについて考えを逡巡させる時間は、他の何よりも深く想像の海へダイブする時間となる。
そして、そうしたWONDERこそが、知を追求する人間の試みにおいてかけがえのないものとなるだろう。
種人の引っかかりから生まれたWONDERから、生命と宇宙に対して独自の視点で向き合う彫刻家・名和晃平さんのイマジネーションを受け、
ブラックホールそのもの、またその「黒」さにまつわる様々な質問に回答をいただいた今回のアンケートで
「ブラックホールと黒」についての想像も大きく膨らんだのではないだろうか。
次回の後編ではいよいよ宇宙の専門家へ知識を求めることになるが、果たしてどんなアンサーが飛び出すのか。
天文学や物理学を発展させ、人智を結集した研究のいまは、この途方もないスケールのWONDERをどこに着地させるのだろう。
ブラックホールという概念の成立から「黒」へ至るアンサーを、ともに探求していきたい。
___後編へ続く

飯塚大和
「黒の研究所」研究所員
グラフィックデザイナー・エンジニア。大学で書体デザインとプログラミングに興味を持ち、2019年より岡本健デザイン事務所に所属。紙面のデザインから UI の設計まで、幅広い領域でのものづくりに取り組む。趣味は個人開発、料理、フリースタイルフットボール。