今回の種人は...
太田 メグ 研究員
黒にまつわるWONDER(疑問)を探求する場。
第1回のテーマ「混色と黒」に対して、20~50代100人にアンケートを実施。「黒の絵具がなかったら、黒髪を何色で描く?」「目の前にある黒い絵。何が描かれている?」「そもそも、複数の色を混ぜると黒に近づくのはなぜ?」 黒への疑問に、想像力が膨らむ。

複数の色を混ぜると、黒に近づくのはなぜ?|中編

100人に聞きました!「あなたの思う、黒ってなに?」


Q1.(黒髪の女性の写真を見せて)この人物の髪を絵具で描く際、黒がなかったら、あなたはパレットに何色を出しますか?

Q2. Q1の質問で、単色(一色のみ)を選んだ方はなぜその色を選んだか、混色(複数の色)を選んだ方はなぜその色の組み合わせなのか、理由を記入してください。

Q3. あなたの目の前に、一枚の「黒い絵」があります。それは、どんなモチーフを描いた作品でしょうか?

Q4. 複数の色を混ぜると黒に近づくのは何故だと思いますか?

今回の種人・太田メグさんのWONDERを受け、多くの人それぞれが持つ「黒」という色に対する認識やイメージを集めてみようと、『黒の研究所』では、2024年8月、20代〜60代の男女100人にアンケートを実施してみた。

「黒を使わずに描いてみて」と言われた場合、人は黒いものをどう捉えようとするのか。

そもそも、黒という色にどんなイメージを持っているのか。

それぞれが黒をテーマに、知識、経験、感性、想像を膨らませていただいた回答をもとに、黒という色について、考えていきたい。

Q1.この人物の髪を絵具で描く際、黒がなかったら、あなたはパレットに何色を出しますか?(複数回答可)

前回お届けした太田メグさんが黒の不思議に取りつかれた原体験をもとに、似た質問をしてみたところ…全体の回答のうち、約7割の人が「複数の色」を選ぶという結果が出た。最も多く選ばれた色は「青」で17.5%、続いて「グレー」が13.0%、「茶色」が11.6%という順だが、実に多様な色が選ばれていることから、黒という色へのアプローチが人それぞれであることが垣間見える。

Q2.Q1の質問で、単色(一色のみ)を選んだ方はなぜその色を選んだか、混色(複数の色)を選んだ方はなぜその色の組み合わせなのか、理由を記入してください。

「黒という色をつくろう」というアプローチなのか、「題材となっているものに近い色を探していこう」というアプローチなのか、この回答だけではそれぞれの意図までは読み切れないが、大きく分類すると、A=色を混ぜると黒に近づくや、明度や彩度といったこれまでに得た知識から考えられた「論理的な回答」。B=写真の中に見える色を観察から引き出していき、見えているものの解像度を上げて色を選んでいく「観察的な回答」。それに、C=主観や経験、直感に基づく「その他の意見」という傾向が見られた。

※以下、一色のみの回答を「単色」、複数色の回答を「混色」と呼ぶ


【A=論理的な回答】

◾️40代女性
選択した色 :グレー(単色)
選択した理由:黒色に最も近い色であるから

◾️50代女性
選択した色 :緑(単色)
選択した理由:黒に近い

◾️20代男性
選択した色 :赤、黄、青、グレー(混色)
選択した理由:色の三原色(赤、黄、青)の理屈に従い、明度の低い色を作ることで黒に近しい色を作る為

◾️40代女性
選択した色 :赤、緑、青、白(混色)
選択した理由:色の三原色(赤、黄、青)を混ぜれば黒になる、という記憶から…。白を混ぜるのではなく、光(艶)を表現するために選択しました

同じく「黒に近いから」という理由でも、選んだ色は「グレー」「緑」と異なる回答。

さらに「色の三原色を混ぜれば黒になる」という知識、記憶がもととなる回答では「赤、黄、青」を選ぶ人もいれば「赤、青、緑」を選ぶ人も。たしかにどちらも色の三原色だと、学校で教わった記憶があるような…?


【B=観察的な回答】

◾️30代女性
選択した色 :グレー(単色)
選択した理由:グレーに見えたから

◾️20代女性
選択した色 :青(単色)
選択した理由:黒の中に寒色が入っているように見えたから

◾️20代女性
選択した色 :オレンジ、黄緑、水色、茶(混色)
選択した理由:少し軽い黒を作れるかなと、見える色を選んでみました

◾️40代女性
選択した色 :緑、青、茶、グレー(混色)
選択した理由:緑系の黒に見えたから

ピックアップした回答だけを見ても、同じ写真から読み取られる色は、人によってさまざま。もしこの質問が「黒も含めた絵具から色を選ぶ」ものだった場合、これほどの個人差は生まれなかったのではないだろうか。対象をよく観察して、色を見つけていく…太田メグさんの「黒を違う色で描こうとすると、色の奥に、色を感じる…!」と、同じような経験をされた方もいたのだろうと想像される。

【C=その他】

◾️40代男性
選択した色 :オレンジ(単色)
選択した理由:直感

◾️50代女性
選択した色 :緑(単色)
選択した理由:碧、翠、緑。髪の美しさに相応しいと思うから

◾️20代女性
選択した色 :赤、黄、緑、青、グレー、白(混色)
選択した理由:真っ黒ではなく少しアッシュカラーっぽく見えたため、美容院でアッシュに髪を染めた時に少し緑色のカラーが入っていた気がするので緑を加えてみました

◾️20代女性
選択した色 :緑、青、紫、茶(混色)
選択した理由:濁った色にはしたくないが、深い色にしたかった。また、黒を表現するために使う色が黒である必要はないと思ったから。この絵の場合、髪が緑がかった深い青色でも黒とみなされるだろう。そういう意味では黒は1番自由かもしれない

髪の美しさから色を連想する人、「黒」という色を自らの世界のフィルターを通し、自由に表現しようとする人。絵具を使って「黒をつくっていくこと」の枠にとらわれず、「絵を描くこと」へのアプローチの違いまでもが感じられてくるような、のびやかな回答も。それぞれの主観や経験、直感にもとづく多様な見解を「その他」では、見ることができた。

そして、Q2全体を通して感じられたのは、回答の幅広さ。そもそも、被写体が黒いものでなかったら、これほど自由な回答が集まっていただろうか?

Q3.あなたの目の前に、一枚の「黒い絵」があります。それは、どんなモチーフを描いた作品でしょうか?

とても自由度の高い、記述形式の質問から「黒のイメージ」を引き出そうというのが狙いだったが、全体を見ていくと回答に3つの傾向が見られたため、ジャンルとその他に分類し、それぞれのパーセンテージを割り出してみた。

【A=「物体(39.7%)」】 
物体として存在するものの黒

【B=「光のない何か(28.4%)」】 
空間に光が無い状態。闇としての黒

【C =「概念(イメージ)(20.6%)】
色からイメージする、概念としての黒

※「闇夜のカラス」や「真夜中の海」など、2つの要素を含む回答はどちらの分類にも加算し、総数で割ることで割合を換算

最も多く回答にあがったのは「物体」で、これは例えば赤や青など、他の色がテーマでも得られたものだろう。しかし次に多かった「光のない何か」や、「概念(イメージ)」といった抽象的な回答の多さは、おそらく「黒ならでは」のもの。

想像するものに個人差の幅が広く、物体だけでなく、輪郭のはっきりしない闇や、神秘、未知の領域にまでイメージが広がってゆく……「黒」というワードによって想起されるものごとの深みを、感じさせられる結果となった。

Q4.複数の色を混ぜると黒に近づくのは何故だと思いますか?

最後に「色を混ぜると黒になるのはなぜ?」という大テーマについて、想像を膨らませて自由に回答してもらった。子どもの頃、複数の絵具を混ぜたときに、色が鈍く、暗くなっていく経験をしたことがある人は多いのではないだろうか。しかし改めて考えてみると、言葉にして説明することは、案外難しい。

「いろいろな色が重なり、深く濃い色になる。その最終形態の色が黒だから。(40代女性)」や「白と白を足せば白だが、それ以外の場合、色を足すと必ず濃い色になっていくので、色を増やせば増やすほど、色自体が濃くなり、黒に近づく(50代女性)」など、物理的な原理を追及、想像した回答のほか、以下のような興味深い回答も見られた。


「知識や経験を通して様々なことを消化・吸収することで自分の中にのみこまれていくように、様々な色が絡み合うことで侵しがたい色になるというイメージ(50代女性)」

「それぞれの持つ色の個性が合わさって、抱えきれなくなって爆発して『もうそろそろいいか、黒にするか!』といった具合に黒に近づいていくイメージです。飽和する感じです。元の色を思い出せないほどに包み込んで黒にしてしまう力強さと、どんな色が来ても受け止める器の大きさ。黒には『絶対的な強さと、秘めた優しさ』のような2面性があると感じます(20代女性)」

「すべてのカラー(個)ひとつひとつの根底に潜む黒色(魂)が手と手を取り合うことで団結し、奥底の方から力強くより魅力を増して表面化していく…ということなのでしょうか?(40代女性)」

「色々なことを経験して多様な色に染まることで揺らがない強さを得られるから(30代男性)」

「味付けに失敗したときにカレールーを入れるのときっと同じ(20代男性)」

色を混ぜると黒になるのはなぜ?その答えとは……

今回のアンケートを通して知りたかったのは、正解…ではない。

多種多様な「黒」に対する捉え方や、回答者それぞれが「黒」の正体を改めて考えることで、

どんな想像が不思議とともに浮かびあがってくるか…だ。

結局「黒」とは何なのだろう? 

『黒の研究所』が辿り着いたひとつの答えは…

「え?どういうこと?」と、あまりピンと来ていない人も多いのではないだろうか。

「そんなの黒だけじゃないのでは?」と言う声も聞こえてきそうだが…確かに黒は、そもそも不思議な色の世界でも、特別な個性を持っている。だからこそ私たちは、黒とあらためて向き合ったとき、今回のアンケートにみられたような、ただの色ではない何かを感じてしまうのではないだろうか。

後編では、この答えを専門家とともに、もう少し深く学んでいきたいと思う

____後編へ続く

WONDERの種人
太田メグ

Cat’s ISSUE 主宰、ディレクター。多摩美術大学卒業後、デザイン、編集、キュレーションとアートを土壌に様々な職を経験し、2010 年アートラウンジ「SUNDAY ISSUE」を立ち上げる。2013年にはネコ好きクリエイターと共に、ネコへの偏愛を発信するプロジェクト「Cat’s ISSUE」を発足。以後「Cat’s ISSUE」にて、アパレルおよび雑貨のデザイン・企画、POP-UPなどを開催。また、 「Cat’s ISSUE」の利益の一部をネコの保護活動へ募金するなど、ネコと人との幸せな生活を啓蒙していくプロジェクトとしても現在活動を続けている