クリエイターの黒い愛用品 vol.009 郡司圭さん

今回のBATONは...
郡司圭 研究員

郡司 圭  カール・ハンセン&サン ジャパン株式会社VM/Trainer

1983年、福島県の海沿い生まれ。大学・大学院では政治と法律を学んだが、2011年の東日本大震災後に「暮しに関わる価値のあるもの」の販売に興味を持ち、ハンス J. ウェグナーのCH24 Yチェアをはじめ、世界的著名デザイナーと協働した製品を日本で販売するカール・ハンセン&サン ジャパン株式会社に2015年入社。東京本店での販売やスタイリング、イベントの企画を経て2023年より現職。https://www.instagram.com/kei.gunji/

 

 

さまざまなジャンルのクリエイターが愛用する、黒い愛用品。定番品として今も買うことのできるものから、今ではもう手に入らないレアグッズまでご紹介いただきながら、黒のバトンを繋いでいく連載です。

1. 黒い表紙が印象的な「自選 谷川俊太郎 詩集」/  岩波文庫(初版2013年)


日本語の可能性を追究し続け、先日お亡くなりになった谷川俊太郎さんが、膨大な作品の中から自身で選ばれた詩集です。

卒業した地元の小学校校歌が谷川さんによるもので、僕はそこで初めて「言葉」というものを意識した気がします。谷川さんの詩はそのほとんどが日常の言葉づかいの延長にありますが、読むたびにその表情を変える深さを持っています。そして友達と谷川さんの詩について語り合っていると「君はこの詩をそんな意味で感じるのか」と驚くことがよくあります。分かりきった様に思える言葉も、僕の中でも意味は変わっていくし、僕と君の間でも意味が違う。その不思議さ、そのしあわせを読むたびに思います。

広瀬陽さんの銅黒釉七宝円筒器 ©赤田英志
𠮷田直嗣さんの白磁円筒器 ©赤田英志

2. 広瀬陽さんと𠮷田直嗣さんによる「黒い円筒器」

七宝でモダンな器を生み出している、広瀬陽さんの銅黒釉七宝円筒器と、
美術でも工芸でもない独自の世界を追求する陶芸家 𠮷田直嗣さんの白磁円筒器です。

広瀬さんの円筒は、僕の作家イメージを大きく変える作品でした。特にその底部分はまるで銀河の星々を覗くような美しさで興奮しました。一方、𠮷田さんの円筒は、冴えわたった轆轤造形があまりに見事な作品です。この2つの作品は僕だけで楽しんでいるのはあまりにもったいないと買った瞬間から感じていました。偶然にもこの2つの円筒は径も高さもうりふたつです。2021年に「水」をひとつのモチーフにした僕の作った絵画や写真をインスタレーションの様に披露させていただく機会があり、この2つの円筒器には表面張力でこぼれるギリギリまで水を満たして展示し、多くの人に見ていただけたのも嬉しい思い出です。

3. 黒のGショック / CASIO

必要十分な機能と高い耐久性を持ち、僕にとっては腕時計の原点でもある日本を代表するプロダクト。

僕が12歳のとき、親戚の結婚式の引出物にあったソーラー充電式Gショックが人生で最初に手にした腕時計でした。それから早30年近く、1度も電池交換をすることなく今も正確に動いています。僕にとって「Gショック」はもはや時計というより「信頼のおける相棒」の代名詞です。この写真のGショックは、友人が僕の誕生日プレゼントとしてくれた2代目。つい先日、ビンテージのカルティエを買うことも真剣に考えましたが、やはり僕にとってはこの相棒の方が大切だなと思い、浮気はやめました。