さまざまなジャンルのクリエイターが愛用する、黒い愛用品。定番品として今も買うことのできるものから、今ではもう手に入らないレアグッズまでご紹介いただきながら、黒のバトンを繋いでいく連載です。
1. 那智黒石
熊野古道で知られる聖地「熊野」で産出される黒い石。わたしは石で作品を制作していますが、最近主に用いている石のひとつが「那智黒石」です。
日本古来の自然崇拝や神仏習合が息づく熊野でとれることや、磨くと滑らかな漆黒の肌になりやさしい光を放つ姿に魅了されました。この石は今から約2000万年前〜1400万年前の間に、海底で微細な粒子が堆積して出来たといわれています。よく見ると黒の中には、たくさんの色の粒子が混在しているのがわかります。個の生命体が生存できる時間を遥かに越えた、確かな時間の蓄積が、この美しい黒を生み出しているのです。
2. 「Last and First Men」/Johann Johannsson
北欧の作曲家ヨハン・ヨハンソンが生前最後に取り組んだ長編映画「Last and First Men」のサウンドトラックCD。
作品をつくる時、作品によっては方向性が近い音楽をかけて制作することもあります。このCDは、大きな絵やインスタレーションで、深淵な黒や畏怖の対象を描きたい時に流しています。映画自体もモノクロームで、光と陰で映し出される景色は、未来的でもあり原始的でもあります。そうした相反する要素が同居するタイムレスな世界観は音楽にも表れ、気高さや懐の深さといった黒や暗闇の豊かさを感じとれる一枚です。
3. コパル琥珀香/サンガインセンス
京都の香煙研究所「サンガインセンス」の線香は、制作時に愛用しているアイテム。フラットな心身で制作することを心がけているので、呼吸と精神を整えてくれるお香を焚いています。香木や生薬をベースに、さまざまな自然物を調合し丁寧に作られたサンガの線香はどれも素晴らしく、特に好きなのが「コパル」。空間と体内を浄化してくれそうな、いやらしさのない無欲な香りが気に入っています。この線香の黒は炭の色で、炭を含むことでより美しい香煙の表情が現れるようです。