複数の色を混ぜると、黒に近づくのはなぜ?|前編
複数の色を混ぜると、黒に近づくのはなぜ?
学校の先生に教わったり、パレットの上で自分でやってみたり…
絵具セットの色をすべて混ぜると黒になるというのを、試したことがある人は多いのではないでしょうか?
でも一方で、だったらなぜ絵具セットに「黒」は必要なのでしょう?
6色、12色…108色…現在販売されている絵具セットには、たくさんの色を含むものも増えてきていますが、色数の少ないセットでも、たいてい黒は入っています。
絵具の黒と、混ぜてできる黒は違う?
そもそもどうして、色を混ぜると黒になる?
『黒の研究所』で、黒の不思議を解明していくのが『WONDER』というコーナーのミッション。第1回目は、黒という色の本質について、太田メグさんからいただくタネをもとに、探求してみたいと思います。
絵の上手な人は、黒を使わない?!
私にとって「黒の不思議」にまつわる原体験といえば、おそらく小学生のころ。水彩絵具で人物を描く授業のとき、先生から「黒の絵具は使わないで」と言われたこと。「自分の髪も、友達の髪も黒に見えるのに、どうして黒を使ってはいけないの?」という疑問が、強く記憶に残っています。
言われた通り、黒い絵具を使わずに描いてみたときハッとしました。実際に描くものをよく観察して、目に見える色に近い色で描くためにはどうすればいいかと試行錯誤していたら……「あれ、色って自分でつくるものなんだ」と、視界が開けたような感覚を得たんです。あらかじめ決まった色だけが世界にあるのではなく、混ぜ合わせ方を変えれば、どんな色でも自分でつくることができる。黒はもちろん、黒以外の色だって絵具の色は誰かが作った色なんだ……と。そこから私にとって、「絵を描く」ということが、ただカタチを書くのではなく、色から見つけていく作業に変わりました。観察し、色を探し、つくる癖ができてから、絵を描くのが、いっそう楽しくなったのを覚えています。
色の奥に、色を感じる…!
小学生の頃の経験は、現在に至るまでに得てきた気づきにも、通じる部分があると思っています。大学時代、私はあるテーマパークで、敷地内の建物などを塗装するペンキの「色」をつくるアルバイトをしていました。渡された色見本と同じ色になるように、大量のペンキを混ぜながら少しずつ色を足していくのですが、いろいろな色を混ぜれば混ぜるほど、ペンキは元の色には戻せなくなってしまう。だからこそ、色見本をよく見て、奥に何色が隠れているのかを見極めながら、慎重に調色していく。こうした経験によって、たいていの色は複数の色に分解することができるのだということ、そして当たり前に目にする色も、誰かが調整を繰り返してつくってくれたおかげでいま自分の目に映っているのだということを、改めて感じることができました
黒の絵具もそう。大人になってから、黒ってすごい色なんだと思うようになったんです。すべてが混ざった色であり、黒を分解したときにでてくる色ですら、さらに分解していくことができたりする。小学校の授業で、他の色については言われなかったのに、黒の絵具は使わないように言われたのも、やっぱり黒は他とは違う、特別な要素を持った色だったんだと思います。
「一色に見える色も、実際はいろんな色でできている」という視点で色を見るようになると、アートがどんどん面白く感じられるようにもなりました。例えば点で描いていく「印象派」の作品を鑑賞するときも、近くで観ると奥にちらっと隠れた色を見つけることができたり……いろいろな経験を通じて体感した「色の分解」や「色をつくるということ」についての気づきとも重なっていったことが、アートに触れる際、楽しみ方の幅をさらに広げてくれたと感じています。
大人になっても惹きつけられる、黒の不思議
色について学んだり、知識を得て、実際にいろいろなアートを観るなかで、先生が「黒の絵具は使わないで」と言った意図は、おそらく理解できるようになったのですが……それでもやっぱり惹きつけられてしまう、不思議な黒の世界。「黒ってどうやってつくられているの?」「黒いものはどうして黒く見えるの?」「どこからが黒でどこまでがグレー?」「あぁ…黒ってホントにおもしろい!」
さぁ「黒の不思議」の世界に、みなさんも一緒に飛び込んでみませんか?
そもそもなぜ、複数の色を混ぜると黒に近づいていくのでしょうか??
今回は黒という色について、子どもの好奇心と大人の探求心をフル回転してみたいと思います。
太田メグ
Cat’s ISSUE 主宰、ディレクター。多摩美術大学卒業後、デザイン、編集、キュレーションとアートを土壌に様々な職を経験し、2010 年アートラウンジ「SUNDAY ISSUE」を立ち上げる。2013年にはネコ好きクリエイターと共に、ネコへの偏愛を発信するプロジェクト「Cat’s ISSUE」を発足。以後「Cat’s ISSUE」にて、アパレルおよび雑貨のデザイン・企画、POP-UPなどを開催。また、 「Cat’s ISSUE」の利益の一部をネコの保護活動へ募金するなど、ネコと人との幸せな生活を啓蒙していくプロジェクトとしても現在活動を続けている